シナリオセンター課題:復讐:「月の裏側」


タイトル
月の裏側
登場人物
飯田正夫(44)会社員
飯田瑠奈(13)飯田の娘
小金井直人(12)瑠奈の同級生
本文
○大通りの歩道(夜)
スーパーの買い物袋を持っている飯田正夫(44)と飯田瑠奈(13)が並んで歩いている。
車道側には瑠奈。
空には満月。
瑠奈「あ、満月だ」
飯田「ほんとだな」
瑠奈「ねえ、月の裏側って見えないって知ってた? 先生が言ってた」
飯田「ああ、なんか聞いたことあるな」
瑠奈「月の裏側ってどうなってるんだろうね」
飯田「はは、きっと、同じ月だよ。それよりも、あれどうなったんだ? 先生はなんか言ってないのか?」
瑠奈「ああ、鈴中君と金森さんのこと? まだ見つかってないみたい」
飯田「そうか、瑠奈も気をつけろよ」
瑠奈「うん」
車道側にいた瑠奈と替わり、自分が車道側を歩く飯田。
飯田「まあ、瑠奈は俺が守るから」
瑠奈「ありがとう」
瑠奈は笑顔。

○笑顔の瑠奈の遺影

○テレビ画面
報道番組。
テロップに『飯田瑠奈ちゃんバット撲殺事件、友人が犯行を自供』。

○児童相談所・外観
『児童相談所』と書かれた看板。
建物から小金井直人(12)が出てくる。
影から飯田が様子をうかがっている。
飯田が一歩踏み出す。

○どこかの通り
飯田が小金井を車に引きずりこむ。

○廃ビル・フロア(夕)
体を紐で縛られ座っている小金井。
小金井の前にはバットを持った飯田。
飯田は息荒く、興奮している。
飯田「おい」
飯田はバットで小金井をつつく。
小金井は飯田を見る。
小金井「飯田さんのお父さん?」
飯田「なんで、こうなったかわかるか?」
小金井「飯田さんの敵討ちですか?」
飯田はバットで小金井を叩く。
小金井がうめく。
飯田「敵討ち? そんもんじゃない。天罰だ。瑠奈の、瑠奈の人生を奪った、天罰だ」
小金井「あ、あれは、しかたがなかったんです、どうしようもなかったんです、僕には」
飯田「しかたがなかった、だと?」
小金井が縛られたまま起き上がる。
小金井「でも、僕はしかたがないとはいえ、飯田さんを殺してしまった。それは事実です。飯田さんのお父さんに恨まれるのは当然ですよね……」
小金井は飯田に一歩近づく。
飯田は一歩、後ずさりする。
飯田「しかたがない、だと? しかたがないわけないだろう、瑠奈は真面目に生きてたんだ、お前が瑠奈を殺していいわけなんてあるわけない」
飯田はバットを持つ手に力をいれる。
小金井「飯田さんのお父さんは、知らないんですよね、きっと」
飯田「知らない? 何がだ? 何の話しをしてる?」
小金井「瑠奈さんのこと」
飯田はバットで小金井の腹を殴る。
小金井はよろけるが倒れない。
小金井「鈴中君と金森さんの事件は知っていますか?」
飯田「行方不明の……、まさか、その子達もお前が……」
小金井「ち、違います。鈴中君と金森さんを殺したのは……、飯田さんですよ」
飯田は体を震わせて、バッドで小金井を再び殴る。
小金井はたまらず倒れる。
飯田「(大きな声で)ふざけるな! 瑠奈を侮辱するな、お前はどれだけ腐ってるんだ」
飯田は倒れている小金井にバットを振り下ろす。
小金井は避ける。
バットの金属音が鳴り響く。
小金井「う、嘘じゃないです、本当です。携帯、飯田さんのスマートフォン持ってないですか?」
飯田「……、瑠奈の携帯だと? それがどうした?」
小金井「そこに証拠が。飯田さんが見せてくれたんです、二人の……」
飯田「二人の?」
小金井「死ぬ瞬間の動画を……」
飯田が歯を食いしばる。
飯田はポケットから携帯を取り出し、小金井に見せる。
飯田「瑠奈の携帯は、お前の顔写真を確認するためにも見たが、そんな写真も動画もなかった、適当なことを言いやがって、この嘘つきが……、死をもって償え」
飯田がバットを振り上げる。
小金井「シークレット機能! 飯田さんのスマホがあるなら中を見てください、一見、なんでもないように見える、虹のマークのアイコンがあるはずです」
飯田はバットを下ろし、脚にはさむ。
慌てて手のスマホを確認する。
スマホの画面に虹色のアイコン。
飯田がタップすると、4桁の暗証番号の入力ダイアログが表示される。
飯田「パスワードが……」
小金井「0925です」
飯田はパスワードを打ち込むと、動画のリストが表示される。
飯田は恐る恐る動画を確認する、裸の男の子が倒れている、そこにナイフを持った瑠奈が現れて画面に向かってピースして微笑む。
飯田はスマホを見続けている。
飯田は目をつぶり、動画を閉じる。
小金井「それが飯田さんの本当の姿です」
飯田「瑠奈の本当の姿?」
小金井「飯田さんは苦しいと言っていました。自分の衝動に」
飯田はバットを手元から落とす。
金属音が鳴り響く。
飯田「苦しい?」
小金井「飯田さんは自分の中の、誰かを殺したいという気持ちに苦しんでいました。飯田さんは優しかった。だから、ほんとうは誰も殺したくなかった」
飯田「なにを言ってるんだ?」
小金井「そのままです。飯田さんは、誰かを殺したい気持ちと殺したくない気持ちで苦しんでいたんです」
飯田「だから、お前が殺した?」
小金井「飯田さんに頼まれたんです。飯田さんはこれ以上誰かを殺してしまうことを恐れて、『殺して』くれと頼んできたんです」
飯田「そ、そんな……、いや、たとえ、それが本当だとしても、やはり、お前が瑠奈を殺していい理由にはなるわけない」
小金井「そう思います……。でも、でも」
小金井が震える。
小金井「飯田さんを殺さなければ、僕が殺されていた、飯田さんは僕に、死ぬか殺すかの選択を迫ってきたんです、だから、僕は僕は……」
震える小金井。
飯田「警察に、そのことは?」
小金井は首を振る。
小金井「言いませんでした、いえ、言えませんでした、飯田さんの笑顔が頭の中にフラッシュバックして、何も言えなかった」
小金井は涙を流す。
飯田はバットを拾い上げる。
飯田「それでも、お前が、瑠奈を殺したことには変わらない。お前の話が本当だろうと嘘だろうと、瑠奈は俺の娘だ」
小金井は飯田を見上げる。
飯田はバットを振り上げる。
飯田は天を仰ぐ。
飯田「瑠奈、なんで、俺に相談してくれなかったんだ」
飯田は苦痛の表情。
小金井「飯田さんは、お父さんのことをよく話してくれました。お父さんを悲しませたくないと言っていました、だから、必死になんとかしようと……」
飯田「そうだ、瑠奈はいつも優しい子だった。そして、俺は瑠奈をずっと守るつもりだった。だから、瑠奈の命を奪ったお前は、はやり許せない、許すことはできない!」
飯田はバットを振り下ろす。
小金井の脚にバットが当たる。
小金井のうめき声。
飯田「瑠奈が本当に苦しんでいたんなら、俺が救ってやるべきだった。君じゃない、君じゃないんだ、なあ、瑠奈は最後、どんな様子だった、なあ」
小金井「飯田さんは、最後は笑顔で、『ありがとう』って、これで楽になれるって」
飯田はもう一度、バットを振り上げる。
小金井の顔を見る飯田。
飯田はバットを振り下ろす。
瑠奈の声「ありがとう」
鳴り響く金属音、飯田の顔のすぐ側にバットが降りおろされた。
飯田「瑠奈が世話になったな」
飯田はふらふらと去っていく。
小金井は倒れたままニヤっと微笑む。